はじめに
人生100年時代といわれる今、65歳を過ぎても働き続けたい・働き手として活躍してほしいという声は年々高まっています。2025年4月1日には高年齢者雇用確保措置の経過措置が終了し、企業は「希望者全員を65歳まで雇用できる仕組み」を整えることが義務化されました。本稿では、制度改正の要点を整理しつつ、企業と個人それぞれの視点で“65歳以降のベストな働き方”を探ります。
1. 法制度の最新動向
主な改正ポイント | 施行・期限 | 企業に求められる措置 |
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65歳までの雇用確保(経過措置終了) | 2025年4月1日 | ①定年65歳引上げ ②希望者全員の継続雇用 ③定年制廃止 のいずれかを必ず実施 |
70歳までの就業機会確保(努力義務) | 2021年4月1日~ | 上記に加え、70歳までの継続雇用・業務委託・社会貢献事業への従事など多様な選択肢を整備 |
ポイント
- 65歳までは「義務」、70歳までは「努力義務」。
- 継続雇用対象を選別できた旧基準は2025年3月31日で完全終了。
- 就業規則や人事制度の見直しを怠ると、行政指導・是正勧告リスクがある。
2. 企業が直面する三つの課題
- 人件費と賃金カーブ
高齢社員の給与水準をどう設計するか。職務給や成果給への切替え、嘱託契約への移行などが検討対象。 - 世代間コミュニケーション
長年培った暗黙知を若手にどう共有するか。メンター制度やダブル担当体制で知見を“見える化”する取り組みが有効。 - 健康・安全配慮
高齢者特有の疾病リスクや体力差を踏まえ、短時間勤務・在宅勤務・作業負荷軽減ツールの導入が不可欠。
3. 65歳以降におすすめの雇用形態と選択基準
形態 | 向いている人 | 企業メリット | 個人メリット / 注意点 |
---|---|---|---|
嘱託社員(再雇用) | 同じ職場・業務で経験を活かしたい | ノウハウ継承・即戦力 | 慣れた環境で安心/報酬・職位は下がる傾向 |
短時間パートタイム | 体力や介護との両立が必要 | 雇用コスト調整可 | 時間の自由度が高い/収入は時給依存 |
プロジェクト顧問・社外取締役 | 経営・専門スキルを持つ | 高付加価値アドバイス | 高報酬も見込める/成果責任が大きい |
業務委託・フリーランス | 働く場所・時間を自分で決めたい | 必要なときだけ起用可 | 自由度最大/営業・確定申告は自己責任 |
社会貢献型契約(70歳努力義務対応) | 地域・社会に還元したい | ESG評価向上 | やりがい重視/収入は限定的な場合も |
4. 実践アイデア:企業事例から学ぶ
A社:技能継承メンター制度
- 再雇用嘱託社員を「技術伝承メンター」として正式ポジション化。
- 若手2名をメンティに付け“ペア作業+動画マニュアル作成”を義務付け。
- 1年で現場教育コスト▲15%、不良率▲10%を達成。
B社:60代フリーランスのリモート活用
- 定年退職した元開発リーダーと業務委託契約。
- 週2日・完全在宅でコードレビュー&技術相談窓口を担う。
- 若手の質問平均応答時間が従来比1/3に短縮、採用難の補完にも寄与。
5. 個人がキャリア設計で押さえる三つの視点
- 年金・社会保険と収入のバランス
在職老齢年金の支給停止ラインや健康保険の種別変更を確認し、手取りベースでシミュレーション。 - 学び直し(リスキリング)
DXスキルや語学など“汎用的人材価値”を高めることで、雇用形態の選択肢が広がる。 - ウェルビーイング優先順位
仕事量よりも「社会参加」「仲間とのつながり」「健康増進」を重視することで長く働きやすい環境が整う。
6. まとめと行動チェックリスト
チェック項目 | 企業 | 個人 |
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① 就業規則・人事制度は2025年改正に対応済みか | ✔ | |
② 賃金・評価・処遇の新基準を設定したか | ✔ | |
③ 雇用形態別のモデル就業規則・契約書を準備したか | ✔ | |
④ 年金・社会保険と収入を試算したか | ✔ | |
⑤ 健康管理・働く時間を無理なく設計したか | ✔ | |
⑥ 学び直し・スキル棚卸しを行ったか | ✔(研修) | ✔ |
おわりに
65歳以降の雇用は「延長」ではなく**“キャリアの第二章”**です。企業は制度対応だけでなく、高齢社員の経験を企業価値に転換する戦略が求められます。一方、個人は健康・学び・社会貢献の観点を持ちながら最適な雇用形態を選ぶことで、人生100年時代を豊かに歩むことができます。本記事が、その第一歩を踏み出すヒントになれば幸いです。